肺炎球菌ワクチンQ&A

このウェブサイトは肺炎球菌ワクチンについての啓発を目的として日本臨床内科医会が開設したウェブサイトです。

肺炎球菌ワクチンについて

肺炎球菌はヒトの気道に定着している常在菌のひとつですが、しばしば小児において重篤な疾患を引き起こします。日本では小児に対して、13価結合型ワクチン(PCV13)(プレベナー)が定期接種化され、その効果が認められています。
肺炎球菌は高齢者における肺炎の原因菌としても重要なものです。65歳以上の高齢者に対して23価多糖体ワクチン(PPV23)(ニューモバックス)が定期接種化され、接種が進んでいます。しかし、人生100年時代を迎えようとしている日本では、ワクチンの効果は1回の接種のみでは持続が不十分であると思われ、再接種が今後の課題となると思われます。その際には、65歳以上の高齢者で、13価結合型ワクチン(PCV13)(プレベナー)と23価多糖体ワクチン(PPV23)(ニューモバックス)の両者が選択肢となります。
このホームページは、肺炎球菌ワクチンの接種を行う実地臨床医である会員のために、肺炎球菌ワクチンへの理解を促進するために役立つ情報を伝えるために開設されています。

目次

A. 肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)感染症

肺炎球菌はグラム陽性通性嫌気性菌で、ヒトの鼻やのどに常在する常在菌の一つで、形態的特徴から肺炎双球菌ともいわれている。しばしば、ヒトの気道に定着している。小児の多くは保菌している。

肺炎球菌はグラム陽性の双球菌で、複合多糖体で構成されたの莢膜を有している。この莢膜の抗原性により血清型が決められるとともに、莢膜そのものが毒性および病原性に寄与していると考えられている。

莢膜がヒトの白血球表面に存在するFcレセプターや C3bレセプターを介した菌の貪食作用に抵抗性を示すために、強い病原性が発揮されると考えられている。

免疫グロブリンを介したオプソニン化によって食細胞により貪食され、排除される。脾臓摘出者では食細胞が減少しているっために重症化しやすいとされている。

血清型は現時点で93種類以上同定されているが、最も重篤な感染症は少数の血清型(4,6B,9V,14,18C,19F,および23F)によって引き起こされることが多い。

感染の中心は飛沫による。肺炎球菌感染症の一般的な流行はまれであるが、特定集団内(施設など)でのアウトブレイクがみられる。

肺炎球菌は市中肺炎(Community acquired pneumonia:CAP)の起炎菌として最も多く、加齢と共に増加する。その割合は30%前後の報告が多い。

侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)は、肺炎球菌が髄液、血液、関節などの無菌部位から検出されるものを指す。成人、特に高齢者では肺炎が多く、髄膜炎や関節炎もみられる。

感染症予防法の2013年4月1日の改正より、侵襲性肺炎球菌感染症は5類全数届け出疾患となっている。

ペニシリン耐性肺炎球菌 (penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae; PRSP)によるIPDが問題となっている。PRSP の機序としてpenicillin-binding protein(PBP)に変異があることが知られている。

PRSP分離株に多い莢膜型として、19Aが報告され、さらに6Bや23FのPRSPの拡散が世界的な問題となっている。

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B. 肺炎球菌ワクチンの作用機序

肺炎球菌ワクチンには、小児および高齢者を対象とする13価肺炎球結合型ワクチン(PCV13)と、高齢者を対象とする23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(PPSV23)とがある。

定期接種では、小児ではPCV13(プレベナー®、2009年承認)が、高齢者ではPPV23(ニューモバックスNP®、1988年承認,2006年改変)が使用可能である。

どちらのワクチンでも、接種によって誘導された莢膜に対するlgGが、オプソニン化を介して、細菌の排除を促進する。

蛋白結合型ワクチンは人での肺炎球菌の上気道粘膜への定着を阻止することが報告されている。

多糖体にキャリアタンパクを結合したものが結合型ワクチンである。PCV13は、莢膜多糖体に無毒性ジフテリア毒素が結合しており、さらに、アルミニウムジュバントを含んでいる。

結合型ワクチン(PCV13)は、B細胞を活性化し形質細胞に成熟させるだけでなく、樹状細胞を活性化してT細胞を活性化することにより、メモリーB細胞を誘導する。そのため免疫学的な記憶が成立する。

莢膜多糖体ワクチン(PPSV23)は、莢膜多糖体がB細胞を活性化し、一部が形質細胞に成熟しlgGを産生する。T細胞を活性化する作用はないため、メモリーB細胞を誘導して免疫記憶を確立させることはない。

二種類のワクチンには臨床的に罹患者が多い血清型が選ばれている。分離された肺炎球菌の莢膜型がワクチンに含まれる頻度をカバー率という。

PPSV23の23価に対して、PCV13は13価と含まれる莢膜型が少なく、カバー率が低い点には注意が必要である。

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C. 肺炎球菌ワクチンの効果(過去の研究の成績)

PPV23(ニューモバックスNP)のエビデンス
海外から複数の報告がされているが、高齢者の肺炎球菌性肺炎に対する効果のエビデンスは確立されていない。

PPV23では日本の高齢者における成績が報告されている。
1)高齢者介護施設入所者1,006人を対象としたランダマイズド試験において、すべての肺炎、肺炎球菌性肺炎の発症、および死亡の減少がみられた。
2)地域における65歳以上のインフルエンザワクチン接種した786人を対象とした観察において、75歳以上の高齢者、慢性肺疾患感謝、歩行困難者で肺炎予防効果が見られた。さらに肺炎による医療費の削減が示された。
3)65歳以上を対象としたTest-negative designの多施設前向き試験で、ワクチンに含まれる血清型による肺炎球菌性肺炎の減少が示された。

PCV13(プレベナー13)のエビデンス
小児における有用性は確立されている。また、肺炎球菌の粘膜定着を阻止することが報告されている。

高齢者への効果のエビデンスが大規模なランダマイズド試験から得られている。
オランダ(PPV23の影響が少ない)において、65歳以上のPCV13接種者42,240人、プラセボ42,256人が継続的に観察された。その結果では、肺炎球菌性肺炎が45.6%、肺炎球菌性非菌血症性肺炎が45.0%、IPD全体が75.0%減少した。
観察期間の経過とともに肺炎球菌性肺炎の発症はPCV13群とプラセボ群で蓄積されているが、その頻度の差は経過とともに拡大しており、PCV13の効果が5年間持続していることが示唆されている。

米国ではPCV13に含まれる莢膜型の肺炎球菌感染症が高齢者でも減少しており、小児へのPCV13接種の普及による間接的な効果であると考えられている。

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D. 肺炎球菌ワクチンの接種

日本において、ワクチンの接種は、定期接種と任意接種に分けられている。予防接種法により接種が勧奨される「定期接種」と定期接種以外の「任意接種」がある。定期接種と任意接種は、法律上の区分であり、医学的な重要性によるものではない。

定期接種の対象疾病は「A類疾病」と「B類疾病」に分類される。65歳以上の肺炎球菌感染症は「B類疾病」であり、目的は個人の予防であり、集団の予防ではない。

現在日本ではPPV23のみが定期接種に採用されている。接種は一部自己負担となるが、公的な補助があり、その方法は自治体によって独自に決められている。

予防接種法施行令が平成31年3月20日に改正された。
公的な補助の対象は、
過去にPPV23の接種歴がない場合で、以下に該当する場合。
①65歳以上の高齢者、
②60歳以上で65歳以上のもので、心臓もしくは呼吸器の機能またはヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能に障害を有する者

平成31年から平成35年度までの間の定期接種は、PPSV23未接種者で、65歳、70歳、75歳、80歳、90歳、95歳、100歳の年齢での接種が推奨されている。

PPV23は、1回0.5mlを皮下または筋肉内注射。通常皮下注射がされることが多い。接種後の効果は数年持続すると考えられているが、疾病の予防効果の持続期間についての明確なエビデンスはまだない。

PCV13は筋肉内注射のみ。免疫学的な記憶が誘導され、効果が長く続くことが期待されるが、疾病の予防効果についての明確なエビデンスはまだない。

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E. 肺炎球菌ワクチンの副反応

PPV23の副反応
一般に多いのは注射部位の腫脹、疼痛。通常、処置無しで自然に消失する。比較的頻度が高い重篤な副反応として、注射部位の蜂巣炎が報告されている。

多糖体を主成分よる発熱(ときに高熱)、倦怠感、白血球増加、CRPの上昇がある。これらは通常1~2日で消失。

過去5年以内に接種を受けている場合には、接種部位の局所反応の程度や副反応の出現頻度が高いとされ、注意が必要。

PCV13の副反応
一般に多いのは注射部位の腫脹、疼痛。通常、処置無しで自然に消失する。その程度や頻度はPPV23の場合とほぼ同等。

免疫応答が強いことから痛みを含む局所の副反応や全身性の副反応が強いことが懸念されるが、海外での多数例の観察では現時点で問題となる副反応は報告されていない。

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F.インフルエンザワクチンとの同時接種

肺炎球菌ワクチンの効果はインフルエンザワクチンと併用した場合に高くなることが海外から報告されている。日本での肺炎球菌ワクチンの効果を認めた報告でも対象者にはインフルエンザワクチンが接種されている。両ワクチンの併用は肺炎予防に有効と考えられる。

予防接種法施行令では、不活化ワクチンの場合、中6日以上の間隔をあけるとされている。肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、中6日以上の間隔をあけると接種は可能。

医師が必要と認める場合には同時接種が認められている。2つのワクチンを混ぜて、同じ注射器で接種することは出来ない。必ずそれぞれの部位での接種が必要。
インフルエンザワクチンの毎年の接種時に肺炎球菌ワクチンの接種状況の確認と未接種者への接種の勧奨が、接種率向上に有効と考えられる。

海外では、インフルエンザワクチンとPPV23あるいはPCV13の同時接種の安全性は確立されている。

日本臨床内科医会の調査で、PCV13を、インフルエンザワクチンと同日あるいは14日以内の同時期に接種した場合、副反応の頻度や程度には問題はみられなかったことが報告されている。

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G. 再接種の必要性

肺炎球菌ワクチンによって誘導されたOPC力価(IgGによるオプソニン効果の指標)は、経年的に低下していく。従って、肺炎球菌ワクチンの効果は経年的に減弱していくことが想定され、再接種が必要になると考えられる。

現時点で両ワクチンともに再接種での有効性に関するエビデンスは得られていない。しかし、免疫学的な見地からは再接種による免疫の誘導は肺炎球菌感染症の予防に有益であると考えられる。

人生100年時代と言われる日本では、今後、肺炎球菌ワクチンの再接種が重要な課題となる。再接種は現時点では全て任意接種であり、公的な補助は制度化されていない。

PPV23の再接種は、5年以上経て接種することが進められている。これは5年以内での再接種での強い副反応のリスクを避けるためである。

日本におけるPPV23再接種では、2回目の接種による免疫応答は1回目とほぼ同等であったと報告されている。免疫学的な記憶は誘導されないので、初回より強力の反応を期待することは難しい。副反応の頻度および程度は1回目と差がなかった。

PCV13を再接種に使用する場合は、1年以上の経過で接種する。初回より強力な免疫応答が得られることが報告されている。

海外の成績では、PCV13の接種後にPCV13を再接種した場合、PPV23の接種後にPPV23を再接種した場合に比較して、多くの血清型において、より強力な免疫応答が得られることが報告されている。

米国では以下のような肺炎球菌ワクチンの接種推奨(2015年改訂版)がされている。
・65歳以上で肺炎球菌ワクチンの接種歴がない場合は、PCV13を接種。接種後6〜12か月の間隔でPPV23の接種
・65歳以降にPPV23接種がある場合は、接種後1年以上の間隔をあけてPCV13を接種
・65歳以前にPPV23接種ありの場合は、PPV23接種後1年以上の間隔をあけてPCV13を接種し、さらに5年以上経過した後はPPV23を接種

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